FIFAランク1位と2位が決勝で当たるのは、このランキング制度が始まって以来初めてのことらしい。アルゼンチンとスペイン、南米王者と欧州王者。どちらが勝っても文句のつけようがない組み合わせで、実力で見れば紙一重だと思う。だからこそ、この一戦の行方を左右しそうな「実力以外の変数」の方に、正直目が向いている。
この芝は、大会を通じてずっと話題になってきた
MetLifeスタジアムのピッチは、決勝の舞台になる前から評判が良くなかった。フランスのラビオは「芝と呼べない、人工芝みたいに硬い」とこぼし、デシャン監督も「芝の下にセメントでもあるのでは」と皮肉った。ブラジルのヴィニシウスも、暑さで芝が乾いてボールが遅くなりリズムを崩したと話していたと報じられている。以前ブラジル対日本の記事でも会場のピッチがドリブルに与える影響を調べたが、今回はさらにその本丸、決勝の舞台でこの芝がどう出るかという話になる。
FIFA側もこの状況は把握していて、決勝の2週間前(7/5のノルウェー対ブラジル戦以降)から会場を使用停止にし、灌水系統の調整と養生に充てたという。ピッチ管理責任者は会見で「95%は目標水準に達した」「16会場中4位相当」と説明していて、大きな破綻は避けられそうな口ぶりではある。それでも「95%」という数字が、大一番の決勝に向けた説明としてどこまで安心材料になるかは、正直まだ判断がつかない。
今度は、煙が主役になりそうだ
気温そのものは、直前になって見通しが好転している。大会中盤の準々決勝あたりまで各会場で話題になっていた酷暑リスクは、決勝に関しては降水確率も3〜16%程度まで下がり、気温も華氏80度台前半(摂氏27〜28度ほど)の晴れ予報に落ち着いてきたという報道が多い。ただし代わりに浮上してきたのが、カナダ・オンタリオ州からの山火事の煙による大気質の悪化だ。FIFA会長が対応についてホワイトハウスと協議したとも報じられていて、スペインは木曜の練習を屋外で行い、その判断に専門家から懸念の声が上がったという記事もある。日曜までには天候が回復する見通しが優勢のようだが、煙自体は空気中に残る可能性があるとされていて、両チームとも90分以上、屋外でこの空気にさらされ続けることになる。
今大会を通じて「暑さ」を軸に会場を見てきた身としては、決勝でこの軸が「煙」に変わったのは正直予想していなかった。目に見えにくい変数だけに、試合の入り方や運動量にどう影響するかは、キックオフを迎えてみないと分からない部分が大きいと思う。
史上初のハーフタイムショーという、もうひとつの変数
決勝は史上初めてハーフタイムショーを実施する予定で、マドンナやシャキーラ、BTS、ジャスティン・ビーバーらが出演し、閉会式も含めると中断時間は20分程度に及ぶという。気になるのは、そのステージをスタンド上部ではなくピッチ上に設営する計画になっている点だ。2025年のクラブW杯決勝ではスタンド上部にステージを組んでこのリスクを避けた前例があるらしく、今回はそれよりピッチへの負荷が大きいのではという指摘も出ている。ただでさえ評判の悪い芝に、大掛かりな機材の搬入・撤去がどう影響するかは、実際に後半が始まってみないと分からない。
対照的な勝ち上がり方
ここまでの戦い方を見ると、両者の性格はかなり違う。アルゼンチンは高いポゼッション(パス成功率91%、大会最多のパス数)を保ちながらも、際どい試合を勝ち切ってきたチームだ。カーボベルデ戦、準々決勝のスイス戦はいずれも延長にもつれ、準決勝のイングランド戦も終盤の逆転劇だった。守備には多少の危うさもあるとされていて、接戦をこじ開ける強さと引き換えに、綺麗に勝ち切れない試合が多い。
対するスペインは、7試合で許した失点がわずか1という、大会屈指の堅守で勝ち上がってきた。GKウナイ・シモンは560分連続無失点という大会新記録を樹立していて、「進化型ティキ・タカ」と呼ばれる保持型のサッカーに、以前より縦への推進力を強めた形で仕上げてきている。接戦を粘り強く勝ち切るアルゼンチンと、そもそも崩されないスペイン。決勝でこの二つがぶつかったときに、どちらの持ち味が先に崩れるのかは見ものだと思う。
個人的な見立てを言えば、この一戦はスペインにやや分があると見ている。アルゼンチンの「終盤に接戦をこじ開ける」勝ち方は裏を返せば90分で綺麗に勝ち切れていないということで、カーボベルデもスイスもイングランドも、格上ではあっても大会屈指の堅守ではなかった。そもそも崩れないスペインの守備を相手に同じやり方が通用するかは怪しいと思う。もちろんこの見立てを覆せる要因はひとつあって、それがメッシだ。個の質で試合をこじ開けられる選手がいる限り、この予想はいつひっくり返ってもおかしくない。
メッシの記録と、まだ言い切れないこと
この大会でメッシはすでにW杯通算21得点という歴代単独最多の記録を更新している。39歳での決勝進出について、スカローニ監督は「彼は生きる歴史だ」と表現していた。この決勝がメッシにとって最後のW杯になるのではという見方は複数のメディアで語られているが、本人からも監督からも公式な引退表明は出ていない。スカローニ自身、準決勝後の会見で「彼に聞いてくれ、私には全く分からない」と明言を避けている。だから、これが本当に最後になるのかどうかは、今の時点では言い切れないというのが正直なところだ。
個人的に当日見ておきたいのは、前半のうちにこの芝と空気にどちらが先に適応するかだ。実力が拮抗した相手同士だからこそ、こういう目に見えにくい要因が、試合の流れを決める最後の一押しになるのではないかと思っている。