正直に言うと、この試合を見終えたあと、いちばん最初に頭に浮かんだのは「読みを外したな」という反省だった。オランダ相手に2-2。優勝候補のひとつと真っ向から点を取り合い、二度ビハインドを背負いながら二度とも追いついて、日本は勝点1を持ち帰った。試合前、私はこの一戦を「ロースコアの我慢比べ」になると見ていた。蓋を開ければ後半だけで4点が入る派手な打ち合いで、想定とはずいぶん違う90分だった。だからこそ、書き残しておく価値がある試合だと思う。
まず、プレビューの答え合わせから
この試合の事前のデータ整理で、私は日本の勝ち筋を「前半を0-0で凌ぎ、後半に勝負する」展開だと書いた。直近のイングランド戦・スコットランド戦がいずれも前半0-0からの後半1点で、同じ形を期待していたわけだ。前半に関しては、その読みは当たった。スコアレスで折り返し、試合が動いたのはすべて後半。ここは想定どおりだった。
外したのは、その後の絵だ。私は「日本が1点を守り切る」か「1-1の競り合い」あたりを思い描いていて、両チームが2点ずつ取り合う展開はまったく頭になかった。もうひとつ外したのが、オランダの並び。クーマン体制の主軸である4-2-3-1で来ると見ていたが、実際に蓋を開けると4-3-3。中盤を3枚にして厚みを持たせ、両ウイングのガクポとマレンを高く張らせる、より攻撃的な形だった。布陣の読みを外せば、その先の展開予想がずれるのは当然で、これは素直に反省点として置いておきたい。
逆に当たったのは日本のほうで、森保監督は事前の想定どおり3-4-2-1を採用した。3バックは渡辺剛・谷口彰悟・伊藤洋輝、ダブルボランチに佐野海舟と鎌田大地、両ワイドに堂安律と中村敬斗、シャドーに久保建英、前線に前田大然と上田綺世。三笘薫と南野拓実を欠いた中で、左サイドを中村敬斗に託す形まで含めて、おおむね予想の範囲に収まっていた。
後半に集中した4ゴール
試合が大きく動いたのは後半に入ってからだ。51分、オランダがセットプレーの流れからファン・ダイクのゴールで先制する。フラーフェンベルフのアシストで、優勝候補が地力を見せた格好だった。普通ならここで日本が呑まれてもおかしくない。ところが日本の反応は早かった。わずか6分後の57分、久保建英のパスから中村敬斗が決めてすぐさま同点に追いつく。三笘の不在で左サイドの推進力が落ちると見られていたところを、中村敬斗が結果で埋めてみせた一撃だった。
突き放されてもおかしくなかったのはむしろ日本のほうで、64分には再びフラーフェンベルフが起点となり、サマービルにこの日2点目を許す。1点を追う展開で、相手は優勝候補。残り時間も25分あまり。状況だけ見れば苦しい。それでも日本は最後まで足を止めなかった。89分、途中出場の小川航基が前線で身体を張ってつなぎ、最後は鎌田大地が押し込んで2-2。試合終了間際の、執念のような同点弾だった。
4ゴールがすべて後半の、しかも51分から89分までの38分間に集中したのは見ていて面白かった。前半は両者とも慎重に入り、間合いを測り合った。均衡が一度崩れると、そこからは振り子のように主導権が行き来した。優勝候補が二度リードを奪い、格下とされた側が二度とも追いつく――順位表の上では引き分けでも、内容としては日本が最も強い相手から「勝点1をもぎ取った」という手応えのある90分だったと思う。
なぜ日本は渡り合えたのか
事前のデータ整理でも触れたが、今の日本の土台は守備の安定にある。直近の代表戦では強豪相手にも失点を最小限に抑える試合が続いていて、簡単には崩れない。この試合でも前半を0-0で締めたのは、その堅さの延長線上にあった。二度失点したとはいえ、いずれも後半の、相手が攻撃のギアを上げた時間帯。崩壊ではなく、殴り合いのなかでの失点だ。
むしろ印象に残ったのは、ビハインドを負ってからの折れなさだった。先制されてすぐ追いつき、再び突き放されても終了間際に追いつく。この「二度追い」を支えたのが、久保や中村敬斗の前向きな仕掛けと、終盤の交代で流れを変えにいく姿勢だった。89分の同点弾が途中出場の小川航基のアシストから生まれたのは象徴的で、ベンチを含めたチーム全体で勝点を取りにいった結果だと思う。森保監督が後半の半ばに前線をリフレッシュして圧力を保つやり方は、こういう競り合いで効いてくる。
もちろん課題も見えた。ボールを持たされた局面で相手の堅いブロックをこじ開ける力――今大会を通じて日本に問われ続けるであろうこのテーマは、相手が前に出てくるオランダ戦では表面化しにくかった。引いて守る相手とやったとき、同じように主導権を握れるかは別の話だ。実際それは、次の第2節のチュニジア戦で早速問われることになる。
数字の補助線と、この引き分けの意味
書類上の力関係でいえば、オランダは世界ランキングでも市場価値でも日本を明確に上回る格上だった。事前にざっくり見積もった期待得点でも、オランダがやや優勢という傾きだったのは確かだ。ただ、こうした数字はあくまで「どちらにどれだけ傾いているか」を眺めるための補助線にすぎない。期待得点という考え方そのものについてはポアソン分布の解説に書いたとおりで、一発勝負の代表戦、しかも実力が拮抗してきたカードでは、平均値どおりに収まらないことのほうがむしろ普通だ。この試合の2-2は、その「普通に起こるズレ」を地で行く結果だった。
そして、勝点1の価値は小さくない。グループFはオランダ・日本・チュニジア・スウェーデンの4か国。優勝候補から取りこぼさなかったことで、日本は突破争いで悪くない位置に立った。次節のチュニジアに勝てれば、最終節を前にかなり楽になる。具体的に勝点をいくつ積めば突破圏に入るのかは、グループF突破の逆算で別途整理している。初戦のこの引き分けは、地味だが確かな一歩だったと思う。
読みを外した試合ではあった。それでも――いや、外したからこそ、書いていて発見の多い90分だった。優勝候補に二度追いついて勝点1。データが描く平均像を、選手たちが現場で上書きしてみせる。こういう試合があるから、数字を片手に観戦するのはやめられない。