決勝前、この一戦はスペインにやや分があると書いた。結果だけ見ればその通りになったのだけれど、実際に90分プラス延長を見終えてみると、自分が想定していたのとはまるで違う中身だった。接戦をこじ開けてきたアルゼンチンが最後も接戦を演じる、という展開を思い描いていたのに、蓋を開けたらアルゼンチンはほとんど何もできていなかった。
アルゼンチンの総シュートは、たったの2本だった
数字を先に置く。ボール支配率はスペイン65%、アルゼンチン35%。総シュート数はスペイン20本(枠内12本)に対し、アルゼンチンはわずか2本、しかも枠内シュートは0本。期待得点(xG)もスペイン1.94に対しアルゼンチン0.22という数字が残っている。決勝という最大の舞台で、優勝候補の一角がここまで攻撃の形を作れなかった試合を、自分はちょっと記憶にない。準決勝までのアルゼンチンは接戦を終盤にこじ開ける勝ち方をしてきたチームだったが、この試合に関しては「こじ開ける」以前の話で、そもそもゴールに迫る回数自体が足りていなかった。
エミリアーノ・マルティネスの11セーブが、試合を90分以上持たせた
それでもスコアが動かなかったのは、GKエミリアーノ・マルティネスが11セーブという仕事をしたからだ。攻撃が機能しない中でも、後ろで防波堤になれる選手が一人いれば試合は簡単には壊れない。前回大会のPK戦のヒーローが、今大会は延長までもつれ込む1点差を守り切る側に回っていた格好で、アルゼンチンがスコアレスのまま延長に入れたのは、彼の存在が大きい。
退場と黄紙の乱発、規律が先に崩れていった
試合を通じて崩れていったのは、攻撃の形以上にアルゼンチンの規律だったように見える。クリスティアン・ロメロ、リサンドロ・マルティネス、レアンドロ・パレデスと立て続けに警告が重なり、最終的にアルゼンチンは6枚のイエローカードを受けた。極めつきは前半アディショナルタイム3分、エンソ・フェルナンデスの反則による退場だ。スペインは警告0・退場0のまま試合を終えている。守備は最後まで踏ん張ったが、1人少ない状態で延長を戦うハンデは軽くなかったはずだ。
106分、フェラン・トーレスの一撃
均衡を破ったのは延長後半に入ってすぐの106分だった。ペドロ・ポルトのクロスをニコ・ウィリアムズが頭でつなぎ、62分からピッチに入っていたフェラン・トーレスがワンタッチで押し込んだ。守り切る側だったマルティネスにとって、この1本だけはどうにもならなかった。試合を通じて11回防いだ末の、たった一つの綻びで決勝は決まった。
メッシの最後になるかもしれない90分プラス延長
メッシはこの決勝もフル出場し、交代もカードもなく120分を戦い切った。39歳での決勝の舞台。この大会で樹立したW杯通算21得点という歴代単独最多の記録は、今回の決勝では更新されなかったが、それでも大きく残る数字だ。これが本当に彼の最後のW杯になるのかどうかは、本人からも監督からも公式な発言が出ていない以上、今の時点では言い切れない。ただ、これが最後だとしても、目の前で90分以上走り続けた姿を見届けられたことは、観る側としては悪くない締めくくり方だったと思う。
決勝前に「スペインにやや分がある」と書いた自分の見立ては、結果としては当たった。ただし当たった理由は、想定していた「接戦を制する」形ではなく、アルゼンチンがほとんど何もさせてもらえなかったという、もっと一方的な中身だった。予想が当たったときほど、その中身を丁寧に見ておきたいと思う。